人生の転機は唐突に現れる。
まるで、曲がり角を曲がったらそこに落とし穴が空いていたかのように・・・。
そんな書き出しで始まる小説『ひろしさんの引っ越し』の紹介をしよう。
主人公は、そこら辺にいる技術系サラリーマンのひろし。
日々を地道に残業しながら生きる彼に唐突の電話が!
「引っ越してほしい」
この電話の主が謎の男、あるいは女であれば小説は盛り上がるのだが、作家はそれを許さない。
電話をかけてきたのは、彼が勤める会社の社長。
それほど大きな会社ではないため、社長から直接電話がかかってくることもしばしばなのだ。
トベデレベルサの失敗が原因かどうかわからないが、会社寮となっている不動産グループを切り替えたいとのこと。
それが・・・そうだな、例えをわかりやすくするために、今日が10月24日だったとしたら、10月14日くらいだったとしておこうか。
突然の電話に慌てるひろし。
冷静を装いつつも、重要な点を聞き落としていた。「いつ引っ越しをするのか」。
それはさらなる悲劇へと彼を突き落とすことになる。
第2章では、彼の日常が少し描かれる。
若くないことを自覚しつつ、なかなか気持ちがそれに追いつかないという不一致の状態が彼を疲れさせている。
特に、酒の量が減っていることが彼を愕然とさせていることを、直接文章で書かずに匂わせているところがうまい。
琥珀ヱビスの缶が気に入り、集めてみようかどうしようか悩むところなどは、彼の小心さと酒に対する気持ちが涙を誘う。
続く第3章で転換を迎える。
前章で本棚の本を段ボールに詰め、1ヶ月くらいだろうと思われる引っ越しに備えていたのだが、驚愕の事実を知るのだ。
そう、先ほどの日付の例えを使うのならば、引っ越しを10月28日までにやってほしい、と。
それを聞いたのが、10月21日。
ひろしは、衝撃を受ける、という生やさしい言葉では表せないことがあることを知った。
実は、引っ越し話の裏では別の事件も起きていたのだ。
半年以上前にやった仕事のことで難癖をつけられるという、どうしようもない事件だ。
同じチームで作業した人々と急いで打ち合わせをするも、半年前にOKで渡したものが勝手に変更されてNGになったものなど対応はできない、という当然の結論に至る。
幸い、私・・・じゃないひろしは先にそのチームから抜けていたため、心苦しく思いつつも後任者に託す。
第4章に入る前に幕間がある。
ひろしの内心をフィネガンズ・ウェイクに似た意識の流れ文で表現している。
作者もジョイスに影響を受けたことを告白している。
そして第4章。
世の中には避けようがないことがあることを悟り、今回の引っ越しもそうだと達観する。
ならば早めに終わった方がよい、と引っ越し日として週末を選択。
すなわち、10月24日。
3日しかない!
自分を追い詰めて気分の高揚を味わいつつも、年齢による体力不足を痛感するひろし。
目がかすみつつも、23時に帰ってきて3時まで梱包する日々。
さあ、引っ越しは成功するのか!?
これ以降は、実際の小説を読んでいただきたい。
私が気に入ったのは、小話で挟まれている「住民票の原本を持ってくるようにね」。
梱包の合間を縫って、区役所襲撃計画を妄想する下りは圧巻である。
さてさて、こんな馬鹿なこと書いてないで、さっさと寝ますかね。
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